真島あみの世界へようこそ。
はじめてこの世界に訪れた方はこちらをご覧ください → 🪷
🌹・・・・・・・・・・・・・・・・・・・🌹
募集中のセッションはこちら

お申し込みはこちらから
真島あみの真骨頂🌹永遠に色褪せない“褒め言葉”という美容液

インスタグラムもしています🙌
@amimajima で検索してくださいね。

翌朝、澪は白い服を着た。
昨日涙で眠った女にしては、少し無謀な選択だった。
鏡の中の自分は、まだ腫れぼったい目をしている。
顔色も明るくない。
唇に色をのせても、心の奥の重たさまでは隠せなかった。
佐伯さんの奥さんが妊娠している。
その事実は朝になっても消えていなかった。
夢ではない。
昨日、給湯室の前で聞いた声。
秘密の花園へ駆け込んだ夜。
黒いダリア。
魔女の言葉。
すべてが、まだ胸の奥に残っている。
この世は地獄です。
しかし、だからこそ美が必要なのです。
澪は、鏡の前で深く息を吸った。
美
その言葉は今朝の澪には少し遠かった。
昨日の夜は確かに胸に響いた。
地獄も養分にできるかもしれない。
選ばれなかった痛みを、自分を選ぶ力に変えられるかもしれない。
そう思えた瞬間もあった。
しかし朝の光は残酷だった。
現実は物語のようにすぐには変わらない。
会社へ行けば佐伯さんがいる。同僚たちの噂話もある。
自分だけが知らなかったような未来が、職場の空気の中に混じっている。
澪はクローゼットの前で黒い服に手を伸ばしかけた。
今日は目立ちたくない。白なんて着て行きたくない。
百合の女なんて、なかったことにしたい。
そんな気持ちが指先を黒へ向かわせた。
その時、花瓶の中の白い百合が目に入った。
隣には黒いダリアがある。白と黒。祈りと闇。
昨日の夜、澪はその二つを同じ花瓶に挿した。
黒いダリアがあることで、白い百合は前よりも白く見えた。
闇に負けているのではない。闇の隣で、白が深くなっている。
澪は伸ばしかけた手を止めた。
そしてアイボリーのブラウスを手に取った。
淡いゴールドのピアスをつける。
唇にローズをのせる。
手首に、百合の香りをほんの少しだけ。
最後に魔女からもらった白いカードを声に出して読んだ。
「私は、私を粗末に扱わない」
声はまだ弱かった。しかし、昨日よりも真剣だった。
澪は鏡の中の自分を見た。
痛みは消えていない。それでも白を選んだ女がいた。
それが今朝の澪にできる精一杯の美だった。
会社へ向かう道で、澪は何度も引き返したくなった。
駅のホーム。電車の窓。ビルの入り口。どこにも逃げ場はない。
それでも足を止めなかった。
職場に着くと空気はいつも通りだった。
パソコンの起動音。電話の音。朝の挨拶。紙コップのコーヒーの匂い。
世界は澪の痛みなど知らない顔で進んでいる。
それが悔しくて、少し救いでもあった。
澪が席につくと、隣の同僚が言った。
「白石さん、おはようございます。」
「おはようございます。」
「今日のブラウスも素敵ですね。」
澪は一瞬だけ言葉に詰まった。昨日なら少し嬉しく受け取れたはずだった。
しかし今日は、褒め言葉さえ痛かった。
素敵。
何が素敵なのだろう。こんなに胸の中がぐちゃぐちゃなのに。
そんな言葉が出かけた。けれど澪は飲み込んだ。
そして微笑んだ。
「ありがとうございます」
同僚は何も知らない。知らなくていい。
澪は、誰かの言葉に自分の痛みをぶつけることを選ばなかった。
それもひとつの美なのかもしれないと思った。
午前中、佐伯さんが資料を持って澪の席へ来た。
「白石さん、これ確認お願いできますか。」
いつもの声。いつもの距離。
彼は何も悪くない。澪に何かを約束したわけでもない。
それなのに、彼を見るだけで胸が痛む。
左手。
穏やかな表情。
これから父になるかもしれない男の空気。
澪は資料を受け取った。指先が少し震えた。
「確認します。」
声が普通に出たことに自分で驚いた。
佐伯さんは「お願いします。」と言って自分の席へ戻った。
それだけ。それだけなのに澪の中では嵐が起きていた。
どうして私はこの人の隣にいないのだろう。どうして私ではなかったのだろう。
どうして七年も、何も言えなかったのだろう。
心の中の声が、次々に澪を刺した。
そのたびに澪は手首の香りをそっと吸った。
百合の香り。秘密の花園の空気。
魔女の声。
痛みを腐らせてはいけません。
見つめ、美へ変えるのです。
澪は花人手帖を開いた。
仕事中にそんなことをするのは初めてだった。
ページの端に小さく書く。
今日の痛み。
彼が普通に話しかけてくることが苦しい。
私だけが過去の中で立ち止まっている気がする。
そこまで書いて澪は一度ペンを止めた。
そして次の行に書いた。
美の選択。
彼を責めない。
自分を責めない。
仕事を丁寧にする。
この痛みを、私の未来への合図にする。
書いた瞬間、少しだけ呼吸が楽になった。
現実は変わらない。しかし現実への態度を選ぶことはできる。
それが美の選択なのかもしれない。
昼休み、澪はいつものカフェへ行った。
以前からよく通っている店だった。本を読みながらひとりで過ごす時間。
誰かと予定があるわけではない休日や昼休みに、澪はよくカフェへ逃げ込んだ。
そこは孤独を隠せる場所だった。
ひとりでいても不自然ではない。
本を開けば、誰かを待っているようにも見えない。
けれどその日、澪は少し違った気持ちで席についた。
孤独を隠すためではなく、自分のために時間を用意するため。
澪は紅茶を頼んだ。
スマートフォンは鞄にしまった。見れば誰かの幸せが流れてくる。
今の澪には、それを見る強さがなかった。
だから見ない。逃げではない。自分を守る選択。
澪は花人手帖を開き、昨日のページを読み返した。
私は、選ばれなかった痛みを自分を選ぶ力に変える。
私は誰かの未来を眺めて泣く女ではなく、自分の未来を咲かせる女になる。
昨日の夜は涙で滲んでいた言葉。
今読むと、まだ少し大きすぎる言葉に見えた。
けれど嘘ではない。
澪は新しいページにこう書いた。
美の選択とは、痛まないふりをすることではない。
痛んでいる自分を、さらに傷つけない選択をすること。
書き終えると胸の奥が少し静かになった。
その時、カフェの窓の外を小さな女の子を連れた女性が通った。
母親らしき女性は片手に買い物袋を持ち、もう片方の手で女の子の手を引いている。
女の子は何かを話しながら、楽しそうに跳ねていた。
澪の胸がまた痛んだ。可愛いと思った。同時に、羨ましいと思った。
その二つが同時にあることに、澪は戸惑った。
可愛い。羨ましい。寂しい。
私も、あんな風に誰かと歩きたかった。
その気持ちを澪は否定しなかった。
魔女の言葉を思い出す。
花人は聖女ではありません。
澪は手帖に書いた。
私は、子どもを連れた女性を見て羨ましかった。
それは醜さではなく、私の中に未来を欲しがる力が残っているということ。
そこまで書いて澪はペンを置いた。
涙は出なかった。代わりに、胸の奥で何かが小さく燃えた。
自分はまだ欲しがっている。
愛も。未来も。家庭も。誰かと生きることも。
もう遅いと思っていた。欲しがってはいけないと思っていた。
しかし欲望はまだ死んでいなかった。
それは痛みでもあり命でもあった。
仕事が終わったあと、澪は秘密の花園へ向かった。
今夜は、逃げ込むためではなかった。聞きたいことがあった。
扉を開けると鈴の音が鳴った。
温室の中には、白い花と黒い花が交互に並べられていた。
まるで光と影で作られた小さな庭のようだった。
魔女は、奥の席で本を読んでいた。
深い藍色のドレスを纏い、髪には小さな白い花を挿している。
「いらっしゃいませ、澪さん。」
魔女は顔を上げ微笑んだ。
「今日は、泣きに来たのではなさそうですね。」
澪は少し驚いた。
「分かるんですか?」
「ええ。今夜の貴女は、昨日よりも足音がはっきりしています。」
澪は席に座った。
「聞きたいことがあります。」
「どうぞ。」
澪は花人手帖を開いた。
今日書いたページを魔女に見せる。
魔女は静かに読み、少しだけ目を細めた。
「とても良い言葉です。」
澪は小さく息を吐いた。
「美の選択って、こういうことですか?」
魔女は手帖を閉じ澪に返した。
「はい。とても近いところまで来ています。」
「近い?」
「ええ。では今夜は、美の選択についてお話しいたしましょう。」
魔女はテーブルの上に三つのものを置いた。
白い羽根
小さなナイフ
蜜の入った硝子の壺
澪はそれらを不思議そうに見た。
「これは?」
「美の選択に必要な三つです。」
魔女はまず、白い羽根に触れた。
「ひとつ目は、品位です。、」
「品位……」
「はい。何が起きても、自分を汚す言葉に身を明け渡さないことです。」
澪は黙って聞いた。
「嫉妬してはいけないという意味ではありません。怒ってはいけないという意味でもありません。
しかし、嫉妬や怒りに任せて、貴女自身の品位を壊す必要はないのです。」
澪は昨日会社で思った言葉を思い出した。
馬鹿みたい。惨め。何も残っていない女。
あれは佐伯さんの奥さんに向けた言葉ではなかった。自分自身に向けた刃だった。
魔女は次に小さなナイフに触れた。
「ふたつ目は、決断です。」
「決断?」
「はい。美は、曖昧なままでは育ちません。何を見ないか。どこへ行かないか。誰の言葉を自分の中へ入れないか。どの習慣を終わらせるか。それを決める必要があります。」
澪は昼にスマートフォンを見なかったことを思い出した。
「見ないことも、美なんですか?」
「もちろんです。」
魔女は頷いた。
「傷口に塩を塗るようなものを、わざわざ見に行く必要はありません。それは弱さではなく、花を守る知恵です。」
澪の胸にその言葉が沁みた。
最後に、魔女は蜜の壺に触れた。
「三つ目は、変換です。」
「変換……」
「起きたことそのものを変えることはできません。しかし、その出来事を何の養分にするかは選べます。」
魔女は澪を見た。
「選ばれなかった痛みを、自分を嫌う理由にすることもできます。しかし、自分を選ぶ力に変えることもできます。」
澪は静かに頷いた。
「羨ましさを、他人を憎む毒にすることもできます。しかし、自分の本当の望みを知る蜜に変えることもできます。」
澪はカフェで見た母子の姿を思い出した。
羨ましかった。けれどその羨ましさは、自分の未来への願いを教えてくれた。
「澪さん」
「はい」
「美の選択とは、綺麗ごとではありません。」
魔女の声は静かに深くなった。
「地獄の中で、自分をどのような女として扱うかを選ぶことです。」
澪はその言葉を手帖に書いた。
美の選択とは、地獄の中で、自分をどのような女として扱うかを選ぶこと。
魔女は続けた。
「痛い時にさらに自分を傷つける女になるのか。痛い時こそ、自分に水を与える女になるのか。」
澪はペンを握った。
「悔しい時に誰かを呪う女になるのか。悔しさを自分の未来を動かす火にする女になるのか。」
「寂しい時に雑な関係へ落ちる女になるのか。寂しさを自分の器を整える時間に変える女になるのか。」
澪の手が止まった。
雑な関係。その言葉に、胸が少しざわついた。
寂しい夜。誰かに連絡したくなる夜。
たいして好きでもない人に、自分の価値を確かめてもらいたくなる夜。
澪にも覚えがあった。
実際に何かがあったわけではない。
しかし、寂しさの中で、自分を安く差し出したくなる衝動を感じたことはあった。
魔女はそれを見透かしたように言った。
「百合の女性は、寂しさで自分を値下げしてはいけません。」
澪は顔を上げた。
魔女は優しく、しかしはっきりと続けた。
「愛されたい夜ほど、貴女が貴女を丁寧に扱うのです。誰かに触れてほしい夜ほど、まず貴女が貴女の肌に優しく触れるのです。誰かに選んでほしい夜ほど、まず貴女が貴女を選ぶのです。」
澪の目に涙が滲んだ。
「難しいです。」
「難しくて当然です。」
魔女は微笑んだ。
「今まで長い間、自分を後回しにしてきたのですから。一晩で変わらなくてよろしいのです。」
「それでも、選び続けるんですか?」
「はい。」
魔女は静かに言った。
「美は一度の決意ではなく、日々の選択で育つものです。」
澪はその言葉を何度も心の中で繰り返した。
美は日々の選択で育つ。
たった一度、白い服を着たから変わるのではない。たった一度、泣いたから終わるのでもない。
毎朝選ぶ。毎晩選ぶ。
自分を粗末にしないことを。痛みを腐らせないことを。自分の花を踏まないことを。
魔女は澪の前に一枚のカードを置いた。
そこにはこう書かれていた。
今日、私は何を美に変えるか。
「これを、しばらく毎晩書いてください。」
澪はカードを手に取った。
「毎晩?」
「はい。大きな出来事でなくてよろしいのです。」
魔女は言った。
「嫌な言葉を聞いた。嫉妬した。寂しくなった。昔の自分に戻りたくなった。そのような小さな地獄を、ひとつずつ美へ変えていくのです。」
澪は頷いた。
「分かりました。」
魔女は少しだけ声をやわらげた。
「そしてもうひとつ。」
「はい。」
「次の満月の夜、秘密の花園で小さな集まりを開きます。」
「集まり?」
「ええ。花人として生きる女性たちが、それぞれの花と地獄を持ち寄る夜会です。」
澪の胸が高鳴った。
「私も、行っていいんですか?」
魔女は微笑んだ。
「貴女が望むなら。」
澪は少し迷った。
他の花人。自分以外にも、魔女に出会った女性がいる。
それぞれの花を知り、それぞれの地獄を養分にしようとしている女性たち。
会ってみたい。でも怖い。
自分なんかが行っていいのだろうか。
まだ泣いてばかりで、まだ佐伯さんのことも完全には忘れられず、美の選択も始めたばかりなのに。
魔女は澪の迷いを見て、静かに言った。
「満開の女性だけが、花人なのではありません。」
澪は顔を上げた。
「つぼみでも花人です。傷ついても花人です。咲き方を学んでいる途中の女性も、もちろん花人です。」
その言葉に澪の胸が温かくなった。
「では、行きたいです。」
澪ははっきり言った。
「夜会に、行きたいです!」
魔女は満足そうに頷いた。
「では、その日までにひとつ用意してきてください。」
「何をですか?」
「貴女の地獄を美に変えた一文を。」
澪は息を止めた。地獄を美に変えた一文。
魔女は続けた。
「綺麗な言葉で飾る必要はありません。本当の言葉を持ってきてください。本当の言葉だけが、花の根になります。」
澪は深く頷いた。
秘密の花園を出る時、澪は不思議と昨日ほど重くなかった。
佐伯さんの奥さんの妊娠という現実は、まだ胸にある。
けれどその痛みは澪を沈めるだけのものではなくなり始めていた。
それは澪に問いかけていた。
貴女はどう生きたいのか。貴女は何を欲しがっているのか。
貴女はどんな女性として、この地獄を歩くのか。
帰り道、澪は花屋の前で足を止めた。
閉店間際の店先に、白い百合が数本残っていた。
その横に深い赤の花があった。名前を見ると、アマリリスと書かれている。
まっすぐ伸びた茎の先に、大きな赤い花が咲いている。
強い花だった。
澪はその花に目を奪われた。
百合の白とは違う。黒いダリアの闇とも違う。赤い花はまるで心臓のようだった。
澪は白い百合と赤いアマリリスを一本ずつ買った。
家に帰り花瓶に挿す。
白い百合
黒いダリア
赤いアマリリス
三つの花が並ぶと部屋の空気はさらに変わった。
清らかさ、闇、そして生きる火。
澪は花人手帖を開いた。
魔女からもらったカードをページの上に置く。
今日、私は何を美に変えるか。
澪はしばらく考えた。
そして書いた。
今日、私は嫉妬を自分の本当の望みを知る力に変える。
少し間を置いてさらに書いた。
私は、佐伯さんの未来を羨ましいと思った。
それは私も未来を欲しがっているから。
私はその欲望を恥じない。
ペンを握る手に少し力が入った。
私は、誰かの幸せを見て自分を終わらせる女ではない。
誰かの幸せに照らされた自分の望みを、これから叶えに行く女になる。
書き終えた瞬間、澪の胸の奥で何かが静かにほどけた。
まだ痛い。
しかし痛いだけではない。
その痛みの中に未来へ向かう細い光があった。
澪は鏡の前に立った。朝より少し疲れている。
けれど、目の奥に昨日とは違う強さがあった。
澪は自分に向かって言った。
「私は、私を粗末に扱わない。」
そしてもう一度言った。
「私は、私の欲しい未来を恥じない。」
その言葉は部屋の中に静かに広がった。
百合の香り。ダリアの影。アマリリスの赤。
そのすべてが澪の中に少しずつ入ってくる。
数日後、澪は小さな変化を始めた。
朝、起きたらまず花の水を替える。
その日着る服を気分ではなく「今日の私はどう咲くか」で選ぶ。
佐伯さんの話題が耳に入ったら、深呼吸して手帖に一行だけ書く。
嫉妬した日は、嫉妬の奥にある欲望を探す。
寂しい夜は、雑にスマートフォンを眺める代わりに湯船に浸かり、肌にクリームを塗る。
泣きたくなったら泣く。しかし、泣いたあとに自分を責めない。
それは誰にも知られない小さな実践だった。
しかし澪には分かっていた。
自分の根が、少しずつ土の中で動いている。
ある日の仕事帰り、佐伯さんが澪に声をかけた。
「白石さん、最近何か始めたんですか?」
澪は少し驚いた。
「何か、ですか?」
「いや、雰囲気が変わったというか。前より楽しそうに見えるので。」
その言葉を以前の澪なら宝物のように握りしめたかもしれない。
彼に気づいてもらえた。彼が私を見てくれた。
そう思って、また彼の視線に自分の価値を預けたかもしれない。
しかし今の澪は違った。
痛みはある。嬉しさもある。
けれど、そのどちらにも飲み込まれなかった。
澪は静かに微笑んだ。
「自分を整えることを、少し始めました。」
佐伯さんは「いいですね。」と笑った。
澪も笑った。
その笑顔は彼に選ばれるためのものではなかった。
澪自身が、自分の変化を認めるための笑顔だった。
その夜、澪は手帖に書いた。
彼に褒められた。
嬉しかった。
でも私はその言葉を、私の中心には置かない。
私の中心には、私を置く。
書いた瞬間、澪は静かに泣いた。
悲しくて泣いたのではない。
自分の人生が少しずつ自分の手に戻ってくる気がしたからだった。
満月の夜が近づいていた。
秘密の花園の夜会。
花人として生きる女性たちが集まる夜。
澪はまだ、自分がそこにふさわしいか分からなかった。
けれど行きたいと思った。
自分以外の花を見てみたい。
傷つきながらも咲こうとしている女性たちを見てみたい。
そして自分の地獄を美に変えた一文を、魔女に差し出したかった。
夜会の前夜、澪は花人手帖を開いた。
これまで書いてきた言葉を読み返す。
誰かに選ばれるまで、自分の人生を始めない生き方を終わりにする。
私は、誰かに選ばれるために咲くのではない。
私は、私を粗末に扱わない。
この世は地獄である。
しかし、私は地獄に美を咲かせる女になる。
そして今日のページ。
澪は長いあいだ、ペンを持ったまま考えた。
魔女に持っていく一文。
自分の地獄を美に変えた一文。
綺麗すぎる言葉では駄目な気がした。
強がりでも駄目。本当の言葉。澪の根から出てくる言葉。
やがて、澪は書いた。
選ばれなかった私は、惨めな女ではない。
ようやく自分を選ぶ場所まで戻ってきた女である。
その一文は、澪を慰めるための言葉ではなかった。
澪の中の事実だった。
長いあいだ、誰かに選ばれることを待っていた。
待ちながら、何も言わず、何も動かず、自分の人生を少しずつ眠らせていた。
しかし、選ばれなかった痛みが澪を秘密の花園へ連れてきた。
魔女に出会わせた。
花人という生き方を教えた。
百合という花を思い出させた。
地獄を見せ、美を選ばせた。
そう考えると、あの痛みさえただ澪を傷つけるだけの出来事ではなかったのかもしれない。
澪は花瓶の花を見た。
白い百合はゆっくりと開いていた。
黒いダリアは闇のように深く咲いていた。
赤いアマリリスはまっすぐに天井へ向かっていた。
三つの花が、ひとつの部屋にあった。
それは、今の澪そのものだった。
清らかさだけではない。闇だけでもない。痛みの奥に、まだ燃える願いがある。
澪は手帖を閉じた。
明日、秘密の花園へ行く。
初めて、他の花人たちに会う。
それは少し怖かった。
しかし、その怖さの中に、新しい扉の匂いがした。
ベッドに入る前、澪は鏡の前に立つ。
そして静かに言った。
「私は、私を選ぶ。」
その声は以前よりも澄んでいた。
白石澪、三十九歳。
長い間、誰かに選ばれるのを待っていた女。
その夜、彼女は初めて知った。
美は飾ることだけではない。
美は痛みの中で自分を見捨てないこと。
地獄の中で、それでも自分の花を踏まないこと。
そして起きた出来事すべてを、自分を咲かせる養分に変えると決めること。
満月はもうすぐそこまで来ていた。
この物語はフィクションです。
嫉妬した時、羨ましいと思った時、誰かの幸せが痛かった時。
そこで自分を傷つけるのか、それともその痛みの奥にある本音を見つけるのか。
そこに人生の分かれ道があります。
美の選択とは、いつも上品に笑っていることではありません。
悲しい時に悲しいと認めること。
羨ましい時に羨ましいと認めること。
欲しいものを欲しいと認めること。
そしてその痛みを理由に、自分を粗末に扱わないこと。
花人は地獄を否定しません。地獄を見た自分を恥じません。
地獄さえも、自分を咲かせる養分に変えていく。
貴女の中にも、まだ名前のついていない花があるのかもしれません。
貴女の痛みも、貴女を終わらせるものではなく、これから咲く花の根を深くするものなのかもしれません。
花人という生き方に惹かれた方は、ぜひセッションやセミナーでこの世界の扉を開いてみてください。
貴女の花は何でしょうか。
貴女の地獄は、どんな美に変わるのでしょうか。
次回、シーズン1最終話。
第6話「秘密の花園の夜会」

リアルタイム配信 5月31日(日)13時〜15時30分
アーカイブ配信 5月31日(日)〜6月14日(日)
セミナー料金 ¥10,000-

セッション期間 2026年4月〜6月
セッション料金 ¥38,000-(事前振り込み)
真島あみのセッション一覧はこちら→🌹
セミナー・セッションのお申し込みはこちらから
🌹・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・🌹
1番人気の記事です。是非読んでみてください。

メッセージはこちらから↓
