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ハワイ出張前日、しばらくゆっくりお風呂に入れないだろうからと、行きつけの温泉に行きました。
平日の20時頃だったためか、そこまで人は多くありません。
「良かった、ゆっくり入れる。」とホッとしながら服を脱ぎ、洗い場にいきます。
隣には80歳は超えているであろうマダムが。
腰を深く曲げながら、足の指をゆっくり一本一本洗っていらっしゃいました。
そのお姿がなんだかとても洗練されたように見え、ジロジロ見てはいけない…!と思いつつも、ついつい目線がいってしまいます。(ごめんなさい。)
わたしが顔、髪、体を洗い終わっても、まだマダムは丁寧に体を洗っていました。
この時は、お年を召しているから時間がかかるのかな…と思いましたが、後にそうではないということが分かりました。
温泉地で育ったおかげか?
わたしは温泉に長い間入ることができます。(もちろん休憩しながら)
45分くらい入ったでしょうか。気がつくとマダムはいなくなっていました。
まだ入りたかったのですが、量くんとの待ち合わせ時間もあったので上がることにします。
ガラガラと脱衣場の扉を開けると、あのマダムが、ドライヤーし終わった白銀に輝く髪を丁寧にとかしていました。
温泉に用意されてある櫛ではなく、自前の櫛を使っているようでした。年季の入ったつげ櫛(多分)です。
その姿はもうただの“おばあちゃん”ではなく、絵画の中に佇む美女の雰囲気を醸し出しています。腰はしっかりと曲がっていますが、女がむんと立ち昇っているのです。
わたしは速攻で体を拭いて着替え、そのマダムの横に座ってスキンケアを始めます。
ちらっと横目で見ると、マダムは品のいいピンクの和柄のポーチから金属質の何かを取り出します。それをパカっと開くと、ルージュと小さなリップブラシが出てきたではありませんか。
えっ、まさか今からメイクするの?
そのまさか。マダムはゆっくり丁寧にルージュを引きはじめました。
もう21時を過ぎています。
今からお食事?まさかデート?でも、こんなに美意識の高いマダムなら、ありえない話じゃないかも。
それとも寝化粧をするタイプ?どっちにしろ、すごい。素晴らしすぎる。
頭にパンチを食らったような衝撃を受けたわたしは、髪を乾かしながらマダムを凝視(笑)そんなわたしを全く気にすることなくマダムはメイクを終えて立ち上がり、静かに脱衣場を後にしたのでした。
マダムのスタイルは、ベビーピンクのカットソーにブラックのタイトロングスカート。白髪にピンクとブラックがマッチして、とてもエレガントでした。
これから家族や友人とお食事なのか?
デートなのか?
寝化粧なのか?
様々な選択肢を考えてしまうほど魅力的なマダムに出会ったのは久しぶり。
何歳になっても女性であることを忘れない美意識を見せていただきました。素晴らしく美しかった。
今日も明日も、そしておばあちゃんになっても、自分を美しく整えよう、そう思ったのでした。
***
〜人生のどの瞬間も美しい小説の一部〜
辛いときや悲しいときは、自分の人生を小説だと思ってみましょう。
あなたが悩むことも、悲しむことも、人生という小説の一部。
だとしたら、この一瞬一瞬が、とても美しいものになりませんか?