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ブブはいつものように門の前に立っている。
雲ひとつない晴天だった。
太陽が一番上に登ってからしばらく過ぎた頃、
ブブはこの時間の甘くゆったりとした街が好きだった。
「ブブ〜!」
空からブブの名前を呼ぶ声がした。
見上げると小さな鳥がブブに向かって来ていた。
「やぁ、久しぶり、ブブ!」
「久しぶりだね、コットン。
なんでそんなに急いで飛んでいるんだい!?」
小さな鳥の名前はコットン。
子供特有の肉付きで頬や翼の下はふっくらとしていた。
「早くパパいみたいに飛べるようになりたいんだ!」
コットンは門の柱に上に止まった。
「急がなくてもいつかパパみたいに飛べるようになるさ」
「ありがとう、ブブ。でも、僕はもう決めたんだ!
「可愛い坊やね」
ブブとコットンの話を聞いていたレディが口を挟んだ。
レディは気分が向いた日に散歩の途中でブブを揶揄いに来ていた。
今日もたまたま来ていた。
コットンはブブの影に隠れてレディのことが見えていなかったので
それ以上にコットンは初めて見た美しい猫にどう挨拶をしていいか
「初めてましてね、コットンと言うのね。私はレディ、
「初めましてレディ、君みたいな美しい猫は見たことがないよ。」
「私もあなたみたいに可愛い小鳥さんを見たのは初めてよ」
コットンは優しく話しかけてくれたレディに警戒心が解けていた。
子供は自分をまっすぐに迎え入れてくれる相手にはその心も素直に
「可愛い小鳥さん、お母さんはどこかしら?」
「ママは森のお家の中だよ。1人でも平気さ」
コットンは誇らしげに力を込めて言った。
レディにはそれが余計に可愛らしかった。
「あなたはなんでそんなにパパみたいに飛べるようになりたいの?
「もう大切なものを無くさないようにさ」
「何かあったのかい?」
ブブは見上げていた顔を街の方に戻しながら聞いた。
「ブブ、聞いてくれる?」
コットンは柱から小さな翼を優しく羽ばたかせてブブの横まで降り
「私も聞いてていいのかしら?」
「もちろんだよ、レディ」
「今より涼しくて、少しぽかぽかして来た頃、
僕はいつものようにたんぽぽの綿毛を追いかけてたんだ。
風の強い日はうんと遠くまでたんぽぽは飛んでいくんだよ。
その日もたんぽぽを追いかけていたんだ。
そしたら青い家根と青い家根の間にあるお家の黄色い扉の前でキラ
後からママに聞いたら、人間の指輪って言うらしんだ。
森の中にはそんなにキラキラしたものはないからね。
そのまま口に咥えてお家に持って帰ってたんだ。
だって飛びきり素敵なものだったからね。
たんぽぽはいつでも追いかけっこ出来るけど、
家に持って帰ったら、ママがね。
『コットン、それは人間の大切な落とし物かもしれないよ。
って。
だから僕は元の場所に戻しに行くことにしたんだ。
でも飛びきり素敵なモノだから、
毎日、毎日、その指輪を見に行ったよ。
道の上に置いていたら誰かに踏まれるかもしれないからね。
道の端っこのブロックに上に置いたんだ。
お月様が欠けてまん丸になって、それを3回も4回も繰り返しても人間の持ち主は現れなかった。
『きっとその持ち主は諦めてしまった。』そう思って
ママに内緒で森の中の僕の秘密基地に持っていくことにしたんだ。
秘密基地でその指輪を眺めるだけでも素敵なんだけど、
小さな緑色の石が付いていて、
ブブはそんな綺麗な石を見たことがある?」
「ないかもしれないな」
でも、ある時、急にびゅーっと風が強く吹いてね。
『ママは高く飛びすぎると風が強くて危ないからね』
その石をキラキラさせることに夢中だったから、
そして風に身体ごと飛ばされそうになって、
僕もそれに気付いて指輪を追いかけたけど、
指輪はどんどん下に落ちてすぐに見えなくなった。
風に負けないようになんとか地上に降りたけど、
そのまま見つからないままなのさ。
話を聞いてくれてありがとう、ブブ、レディ。
ママにも言えない話だったからね。」
何か失敗してしまうことよりも、
「今度は無くさないように大切にしないとな。」
ブブは優しく言った。
「うん!だから、
「可愛い小鳥さんにはお勉強になったわね。」
「無くした指輪のことを考えるとちょっと気分が落ち込むけどね。
「でも、それでいいのよ。
大切なものを無くしたら、次に大切なものを見つけたときにより大切に出来るでしょ。
そう考えれば失うことは何も悪いことではないのよ。
それが見つからないということはあなたにはもう必要がないのか、もっと素敵なものが見つかるってことよ。」
「う〜ん、大切なものを無くしても平気になるってこと?」
「失うことを慣れることはないわ、
「僕、悲しいことは嫌いだよ。」
「私もよ。」
「レディも何か無くしたことがあるの?」
無くさないようにすることも大切だけど、
あなたもそうでしょ。コットン」
コットンにはまだ意味がよく分からなかった。
ただ、レディが自分の為に話してくれていることが嬉しかった。
この時間は失くした指輪よりも長くずっと大切なものかもしれない
「コットン、もうそろそろ帰る時間じゃないか?」
コットンが興奮して話しているうちに太陽は夕陽へと姿を変えてい
「ママが可愛い坊やのことを心配してるわよ。」
ブブの言葉にレディが付け足した。
「そうだね!ママにもレディのことを教えてあげなくちゃね!」
コットンはさよならと大きな声で言いながら振り返らずに飛んでい
コットンを小さくなるまで見送った後にレディが呟いた。
「どうしても何かを失ってしまうことはあるものね。」
そしてレディはさよならも言わずに歩き出した。
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